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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)16号 判決

大阪府大東市新町10番9号

控訴人

金有感

右訴訟代理人弁護士

服部素明

川浪満和

大阪府門真市殿島町8番12号

被控訴人

門真税務署長 中川利郎

右指定代理人

田中治

外3名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対して昭和57年11月1日付でした同52年分贈与税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨。

二  当事者の主張

次に付加する当審における当事者の主張のほかは原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

1  控訴人

仮に本件物件が控訴人の単独所有でないとしても

(一)  控訴人と甚吉とは内縁関係にあったもので,右両名で開業したラーメン屋の営業収益により原判決別紙取得不動産一覧表の1ないし10の不動産を取得したものであるから,控訴人或いは甚吉とされている所有権取得登記名義にかかわらず,すべて民法762条2項により内部的には実質上控訴人と甚吉との共有(持分各2分の1)であると推定され,右1ないし7,9,10の不動産の売却代金と右営業からの収益で取得した同表の11ないし18の不動産(ただし,井上明治の持分部分は除く。)及び鳥取県所在の他の不動産もまた右と同様内部的には実質上控訴人と甚吉との共有(持分各2分の1)と推定される。

甚吉死亡(昭和52年10月24日)後の35日の法事の席で,控訴人は甚吉の相続人らと右不動産のうち甚吉名義の分について話合い,双方は,控訴人が甚吉名義の不動産につき共有持分(2分の1)があることを確認し,控訴人において本件物件を単独所有し,その余の不動産につき甚吉の相続人らの共有とする旨の分割をする協議が成立し,この協議に従い甲第1号証の協議書が作成されたもので,控訴人は共有物の分割により本件物件を単独所有したに止まるから,控訴人に贈与税を課すことは違法である。

(二)  右(一)が認められないとしても,右(一)のとおり成立した協議は,甚吉の死亡による内縁関係の解消に伴う控訴人と甚吉の財産の清算のために財産分与としてされたものであるから,これにより本件物件を所有するに至った控訴人に贈与税を課すのは違法である。

2  被控訴人

(一)  本件物件は甚吉の特有財産であったから控訴人の主張(一)は失当である。

(二)  財産分与請求権は夫婦が生前に婚姻関係を解消する場合に発生するものであるから,内縁関係にも準用されるとしても,甚吉の死亡により内縁関係が解消した本件においては財産分与請求権は発生せず,よって,控訴人の主張(二)も失当である。

三  証拠関係

控訴人が当審証人岩木健次の証言を援用したほかは原判決事実摘示中証拠関係部分と同じであるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求を棄却すべきであると判断する。その理由は次に付加するほかは原判決理由説示と同じであるからこれを引用する。当審証人岩木健次の証言は右認定を左右しない。

1  当審における控訴人の主張(一)について

控訴人は,右主張において,内縁関係にあった控訴人と甚吉とが内縁中に双方の協力により取得した不動産は民法762条2項により右両名の共有(持分各2分の1)と推定すべきであると主張するので,まずこの点につき検討する。

内縁関係にある当事者間においても民法762条の準用があると解するのが相当ではあるが,同条は,夫婦間の財産につき,夫婦別産制を原則とし,夫婦のいずれか一方の財産であることの明らかなものはその者の特有財産とすることを認め(同条1項),夫婦のいずれに属するか明らかでない場合に限り夫婦間の共有財産と推定する(同条2項)ことを定めたに止まる。原判決理由認定の本件物件を含む一覧表11ないし18の各物件取得の経緯,各物件の取得名義は,一覧表11の物件につき控訴人と甚吉及び明治(各持分3分の1),同15の物件につき控訴人持分5分の4,明治持分5分の1,同18の物件につき控訴人,同12,13,14,16,17の物件につき甚吉とされていることに徴すると,右各物件の取得が主として甚吉が営業したラーメン屋の収益に依るものであり,この営業につき控訴人が多くの寄与をなしたとしても,なお右各物件は右各取得名義人の特有財産と認めるのが相当であり,民法の前記条項を準用して控訴人と甚吉の共有と推定することはできない。よって,右主張は失当である。

してみれば、右主張を前提とする当審における控訴人の主張(一)はその余を判断するまでもなく採用できない。

2  当審における控訴人の主張(二)について

控訴人は,本件物件は甚吉の死亡による内縁関係の解消に伴い,右両名間の財産の清算のための財産分与により本件物件を取得したと主張する。内縁関係当事者間においてもその関係解消にあたり民法768条を準用する余地があるとしても,控訴人と甚吉の内縁関係が解消したのは甚吉の死亡によるものであるから,生前における離婚に関する右規定を準用して控訴人に財産分与請求権が発生すると解することはできない。また内縁関係当事者の一方の死亡により,他方に死亡した当事者(ないしその相続人)との財産関係を清算すべきであるとの根拠も見出し難い。いずれにしても控訴人の右主張は採用し難い。

二  それゆえ,原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法89条,95条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 裁判官 磯尾正)

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